●日本流「人員削減の裏舞台」
 〜こうやって削減数が決められる


「経営企画室長! 雇用調整人数は、おおよそ何人ぐらいになるんだ?」

社長の重い声が、経営会議の重い空気をより一層重くする。

「ハイ。 予想売上高と予想粗利率、そして目標とする経常利益等からみますと、約550人と考えております。」

「550か。多ければ多いほどいいぞ!」

「しかし、200人の削減をするには、大変な努力が要ると考えております。 550と言うことになりますと、約3倍弱に当る人数ですので、これは大変です。何か特別な策を考えて臨まなければ、目標は達成できないと思います。」

北條人事部長はうなる。

「背水の陣で臨まざるを得ないのは皆分かっていることだ。 必ず目標人数を達成する為に、我々が一枚岩になって責任を果たしていこう。」

「この目標を確実に達成するための手立てを、人事部長は早急に立案してもらいたい。」
「同時に、各事業部長と人事部長は、削減対象社員の選定を至急進めるように。」
社長の声が響き渡る。

「山村君、削減対象社員の人事部案を急いで作ってくれ。 その案を基に、各事業部から上がってくるリストとチェックするんだ。」

北條人事部長は経営会議を終えて自席に戻るや否や山村人事課長に指示を出した。

このような形で人員削減の人数が決められていくのは、売上不振にともなう「縮小均衡型のリストラ」によく採られるパターンだ。

その企業の「適正(許容)人員数」の策定は、機械的に単純に次のようなパラメーターではじき出されていく。
@「目標とする売上高」 A「目標とする付加価値率」 B「目標とする労働分配率」 C「目標とする総人件費」 D「目標とする一人当り人件費」 E「現在の一人当り人件費」

これらからはじき出された「適正(許容)人員数」をもとに、「現在人員数」から「適正人員数」を引き算をすれば、「余剰人員数」が算出されるという訳だ。

連結決算好転化を目指す「詰め腹型リストラ」というパターンもある。
親会社の更なる業績好転化を目指して、子会社の人員削減に踏み込むというパターンがこれだ。

親会社の経営企画部署または関係会社統括部署がはじき出した「経営計画案における人員数」が子会社に提示され、若干の親会社と子会社との間における協議を経て削減数が決められていく。

少々の子会社側の抵抗があったとしても、親会社の数字を修正出来るハズもない。

もっとも修正させたいと考えるならば、子会社側にその「立証義務」が生じ、その為の時間のない中での資料作成や根気ある説得マインドが必要となってくる。
大抵はそのような選択はしてはいない。

「長いもの?に 巻かれていく」選択が、「紳士の選択」として採用されていく。

親会社からお目付け役として経営企画部署や人事部署に出向という形で乗り込んできているスタッフが、「参謀役」として子会社のプロパーの経営幹部をリードしているからだ。

「駄目ですよ! そんな危機意識のないようなお考えでは…。 これまで3度も希望退職を募集しても、計画した人数を一度も達成していないんじゃありませんか。」
子会社の人事担当役員に噛みついている人がいる。

「何故、これまで満足すべき人員削減が出来なかったかの分析が、極めて不充分であったと思うのです。」

「従って、この度の希望退職募集は、これまでの失敗分析の上に対策を講じて、最後の募集であるという強い決意と共に取組んで頂かないと、リストラ費用を支出していく本社としても“由々しき問題”として取り上げざるをえない状況になるです。」

「削減目標を必ず達成するためには、これまでのやり方ではなく、新たな施策を織り込んで取組んで頂くことが是非必要であると思います。 社長! 如何ですか? お考えをお聞かせください! 希望退職を募集しました、目標の人数は出ませんでした、の繰返しでは、今度は到底済みませんよ。」

子会社の人事・労務問題の「参謀役」として親会社から出向して来ている、本社では「課長クラス」の若手社員だ。 元気よく自説を役員会で展開している。

子会社の、プロパーの役員は寡黙とならざるをえない。 黙って目の前に置いた会議用資料に目を落とすだけである。 質問を受けた、これまたプロパーの社長がどういう風に答えるかをジット待っている。

大人しそうな社長が口を開いて釈明する………。
「十分に承知しています。 ですから人事部長からいくつかの新しい施策を織り込んだ人員適正化実施計画の素案が近日中に提案される段取りとなっています。」

「次回の役員会で提案させますので、その折に検討し、決定したいと考えています。
いましばらくお待ちください。」

若手の参謀役は、社長の説明でもまだ不満の様子。 攻撃の矛先を人事担当役員である管理本部長に向け、更なる質問をした。

「管理本部長、削減人数は閉鎖店舗を含めて、概ね何人ぐらいとお考えですか?」

「全店合わせて約300人ぐらいと考えております。 ハイ。」

「そうすると募集人員は300人ということですね?」
「そしてこの数字を達成すれば、経常利益率は5%に達するということですか。」

「ハイ、そのように考えています。」
「300人を削減するための施策につきましては、現在、再就職支援会社3社から企画提案書を提出させて、プレゼンテーションを行って詰めているところです。」

「その再就職支援業者の中には、以前 希望退職募集に際して発注した業者の、P社も入っているのですか?」

「入っています。」

「どうして入れているんですか? あそこは良くないですよ。」

「『辞めてもらいたい社員』を希望退職に応募させていくには、管理職に面談研修をキッチリ受けてもらって、応募してもらいたい社員と面談して、更に自分達が開く『再就職支援サービスの説明会』を繰り返し行えば、それらの社員は会社に残れないとあきらめていくから、希望退職応募者数は目標数を達成しますよ、と言っていたところ、なかなかその通りにいかず、散々私たちは苦労したじゃないですか。 あんないい加減なところは外すべきですよ!」

「その後の、再就職決定率も良くはないじゃないですか!」
「あの業者を今回も入れなきゃならないわけでもあるんですか?」

管理本部長、反論出来ず、かすかな抵抗を示しつつ……
「イヤ、未だ正式に発注しているわけではありません。 企画提案をさせて施策案をきいているところでしかありませんから。」

「ですから先ほど申し上げたように、前回われわれにいい加減な提案をして、削減目標を未達に終らせたところの施策案なんて信用性があるのですか? そうじゃないですか。 以前の罪は軽くはないと思うんですよねえ。」

「分りました、今回は外します。」
「C社というのはこの種の問題解決のノウハウや実績を豊富に持っているようです。斬新な施策を提案してきていますので、一度、会ってみてください。」

「彼らの提案によりますと、削減人員の数が300名必達であるならば、約20%増しの360名ぐらいを内部の目標として設定して、新たな施策を織り込んでいけば、300名の目標を達成することが出来ると自信をもって言っています。」

「ホウ…。 興味ある提案ですね。 じゃあ私も同席して新たな施策の内容を聞きましょう。」

後日、この若手の参謀役がC社のプレゼンに立ち会い、新たな施策の採用と共に、「削減数」が300人と決まったのは言うまでもない。

会社としては“役立たず社員”はいてもらいたくない。

同時に、役に立たない再就職支援会社や、リストラのコンサルタント会社も必要はない。

こうしてリストラ策を成功裡に支援してくれるコンサル会社の選定と共に、いよいよ「含み損社員」(「役に立たない人材」)の“精算”が始まっていく。

「うちの会社の場合はですねえ、50才代は多いんですが、その後の世代である40代の社員が少ないんですよ。 今回のリストラで仮に50才代の社員が抜けたら、40才代が少ないので、仕事が回っていかないのではという問題があるんですよ。 だから40才代の社員には手をつけたくはないんですよ。」

時々このようなわけの分からない事を平気で口走る人事の管理職がいる。
この種族の多くが40才代の中堅管理職だ。
自分達自身も、リストラされるような一抹の不安を抱えているのだろうか?と疑いたくもなってしまう。

「人的リストラ」は、何のために行うのかを正しく理解していないからこんな話しが真顔で出来るのだろう。

「私どもの会社は、エネルギーの安定供給が至上命令でして、このためには余分な人間でも緊急時に備えて置いておく必要があったんです。」

「現在、企業を取巻く環境も、規制緩和により多くの新規参入企業が増えたため、コスト低減に取組まなければならない状況になってしまいました。
従って、人員の見直しも当然コストと直結するわけですからやらざるを得ないことになったというわけです。」

「しかし、正面切った雇用調整の実施は、トップの考えにもありません。 何よりも企業イメージの問題からもできるわけがありません。」

「ですので、現在、“社員の自主選択”によって、定年まで在籍するか、関係会社に出向するという出向(転籍)政策かの選択制度しかないのです。」

「昨年、『転進支援制度』を立ち上げたばかりです。 この制度を立ち上げた理由は、出向受け入れをして頂いてきた関係会社各社においてもスリム化や効率化を一層進めており、わが社からの出向受け入れ人員枠が大幅に減少しています。 そのため、例え出向を希望されて60才以降も働きたいという希望をもっている社員全員に、これまでのように出向先を確保することが出来ない状況になってきました。」

「そこで、『転進支援制度』を導入して、“関係会社以外の会社”への再就職や自営を目指す社員の自助努力を支援し始めたと言うわけです。」

「しかしながら、経営トップから指示されている期限までに、スリム化を図るためには、これまでの施策の推進だけではなかなか目標とするスリム化は困難な状況でして、何か外部の方のお知恵をお借りしたいと願っている状況なのです。」

高級スーツに身を包んだ、育ちの良さそうな、社内ではエリートととして知られている人事部長が、コンサルタントにもみ手を加えながら人員のスリム化への協力を依頼しているひとコマだ。

会社の体面を何よりも重んじ、必要な経営の手立てを後ろ倒しにしてきたツケが今、回ってきている。

世間でよくあるケースだ。
単なる「人数合わせ」をして、経営マタ−の処理をしたいという一念が感じられる。
経営トップから言われたから、イヤイヤ人員削減を考えなければならないとも考えている。

だから「削減社員の数」は、人員構成の多い年代層からかき集めることだけを考えてしまう。 ここでは、社員のパフォーマンスや、これから会社が求めていく社員個々のスキルが、会社としての期待に応えられる可能性があるかどうかなどの検証は一切考慮せず、ただ社員の数だけを減らすことだけに意を払っているのだ。

40才代の中の、業績貢献度が少ない、あるいは会社が求めているスキル向上にもシンドイ社員、職場でお荷物扱いされている社員などは、本当に“温存”して良いのだろうか?

50才代の中でも、これからも引き続き活躍がを期待できる社員を“年令軸”だけで、「人減らしの対象」にしていくべきなのだろうか?

バブル期全盛時代に、“大量採用組”である30才代の社員の中には、パフォーマンスの向上が見込めない、或いはパフォーマンスが芳しくない社員はいないのだろうか?

この世代も早晩、時間の問題で、40・50才代を迎える。
それまで放置しておいて、中高年令層になってきたときに、現在採っている「雇用調整策」を、またまた実施していくと言う“行き当たりばったり”のやり方をして、果たして社員の経営に対する信頼感を損なうことはないのだろうか?

何のために「雇用調整を」をするのか、という確固たる軸がないままに、「社員の自主選択」という、一見、耳障りの良い表現だが、実は、会社を離れたい、または辞めたい人は、辞めてもいいですよ、という経営権の放棄にも似た無責任な人事政策に他ならないと言えよう。

目先の事だけ何とか処理して経営トップの期待に応えなければ、自分の立場が悪くなるとも考えている様子がありありだ。
従って、「人員削減数」の設定もいい加減な場合が多い。

その一つの証左が、削減数を設定して「雇用調整」施策を実施して、設定削減目標数を達成できなくても、その後の経営に重大な影響を及ぼした例は余りない。

第二、第三の雇用調整に打って出る企業もあるが、世の中に名の通った、いわゆる“名門”ともくされている大手の古い会社や国際競争をしなくてもよい、殿様商売の業界に属している企業では、いつのまにか何事もなかったように収束させてしまう。

「今日現在の、希望退職の応募者数は何人だ?」
労務担当常務の質問が、人事の責任者に飛ぶ。

「ハイ、471名になっています。」

「471か。 削減目標に対しては、もう8割を超えたんじゃないか?」

「ハイ、削減目標数は545名ですんで、86%強というところですね。」

「そうか、もういいんじゃないか、募集を打ち切っても。」

明るく元気な?常務の声が、会議場を圧倒した。
決まりだ。

あれほど管理職幹部や他の役員の人たちに、

「一枚岩になって、545名の削減にご協力賜りたいと思います!」

「役員ごとに担当制を引きまして、確固たる決意を持って、明日のわが社の存続と発展のために頑張って頂きたくお願い申し上げます!」

「管理職の方々におかれましては、一切、腰を引くことなく、退職勧奨候補社員には、面談研修で学んだ通りの手法で社外転進に導いて頂くことをお願いしておきます。
これはあなた方の“使命”なのです。」

「もしも目標人数を達成出来ない管理職がいた場合には、その人には会社を辞めてもらいます!」

と叫んでいた常務がである。

人員の削減数の決め方は、このように「雇用調整を実施しなければならない背景」に連動して変わってくる。

先に述べた例は、業績不振、特に企業全体が減収減益に陥った時の人員の削減数の決め方だ。

この他のパターンとしては、事業の「選択と集中化」による雇用調整があるが、この場合の人員の削減数の決め方はどうであろう。

良くある例が、不採算事業所または不採算店の閉鎖、あるいは事業の撤退に伴う工場閉鎖にともなう雇用調整だ。

この場合は、原則として当該事業所・店・工場勤務者全員が削減対象者数になる場合と、「優秀な人材」だけをピックアップして、他の事業所や店、または工場に転勤させていく「救助活動」を展開する場合とがある。
この「救助活動を伴う雇用調整」においては、いわゆる「人員の再配置」と「余剰人員の精算」が同時並行的に実施されていくことになる。

この場合にでも、オーソドックスな手法としては、@「新たな経営計画の策定」→A「組織機構の再設計」→B「新たな経営計画に必要な人材の質と量の見直し」→C「適正人件費・適正(許容)人員数の策定」という手順を踏んで人員の削減数が決められていく。

削減すべき人数が決められたら、あとはどの社員を配転要員とするか、どの社員を社外に転進させるかの「人材の仕訳け」、いわゆる「キャリアの脅威」が始まるのだ。

外資系の場合には、本国から削減数が指示されてくることが多い。
いわゆる遠い異国の空から「天命」のごとく降ってくる数字を、日本法人が受命して雇用調整なるものが実施されていくのだ。

この場合、削減数が少ない場合、例えば、「特定業務の合理化により〇〇名体制で来期は臨め!」という場合には、いわゆる「退職勧奨」社員数は自動的に決まってくる。
日本法人の人事セクションから言えば、「直下型地震」に出会うようなものだ。

退職優遇策を立案し、法的トラブルを起こさないようにして「個別退職勧奨」を柱とした雇用調整が実施されていくという図式だ。