●会社は、社員をどのようにして辞めさせていくのか
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「人材の良し、悪し」の仕分け作業は、そう難しいものではない。
だが、会社として「辞めさせたい人材」を、どのようにしたらトラブルなく、円満にご退職願うかは、かなり難易度が高い仕事になる。
会社の人事セクションの腕の見せどころといってよい。
「雇用調整策」に“手馴れた?”人事セクションなどというものは、誉められたものではないし、一般的には余り存在しない。
もっとも外資系の会社では、もっぱら人員整理だけを得意とする人事マンが時々存在していて、“プロの首切り役”を次々と果たして自らのキャリア・アップを図り、他の外資系会社にスピンアウトしていくこともある。
だが、日本企業においては、人事セクションだけの“知恵と工夫”で、「雇用調整施策」を進めることは少ない。 いや、極端な言い方を許してもらうとすれば、進められないと言った方が良いかもしれない。
初めての「雇用調整施策」をすべて自社の力だけで進める企業は、結構、「乱暴者の会社」や「プライドが高く、世間体や体裁を気にする会社」が多い。
内作にこだわる余り、信じられないほどの大胆さと怖さ知らずで「雇用調整施策」を進め、挙句の果てにはトラブルを引き起こしたり、労働問題や訴訟問題に発展させて、会社の顧問弁護士に喜ばれる?お仕事を作り出していく。
勿論、雇用調整すべき削減人数の達成などとても無理。 目標人数の半分も達成できず、恥も外聞もなく「第二次募集」までかけたり、希望退職募集の「募集期間の延長」を打ち出したりといった、労組を巻き込んでの、てんやわんやの醜態を繰り広げることになる。
一方では、中途半端な「雇用調整」を行ったツケで、何回も「雇用調整」を行う羽目に陥って、従業員のモラールを低下させ、組織の活性化が蝕まれていく企業もある。
わずかなコンサルティング料を惜しむ余りのとんだ「内作」化であり、その経営の罪は重い。
これに反して、聡明で見極めの良い決断を下す多くの企業の場合、再就職支援会社や普段、業者として取引している社員教育関係の団体や経営コンサルティング会社に“助っ人”を頼むのが一般的だ。
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「おおーい、山村君! チョッと…。」 北条人事部長が人事課長の山村さんを呼んでいる。
部長席の脇机に座った山村課長に北条部長が声を潜めて言った。
「外に出すリスト作成の進捗状況はどうだ?」
「ハイ、7割方の部署のは仕上がっています。」
「そうか。 それじゃあ、業者選定を始めなきゃアならんな。 10社ぐらいに絞って、雇用調整の企画提案を求めてくれよ。 企画提案の良い業者3社をその中から選定して、プレゼンをやらせてみよう。 すぐ、その準備に移ってくれないか。」
早速、山村人事課長による“業者呼び出し”が始まる。
「ああ、高松さん? 〇〇の山村です。 チョッと相談したいことがあるので、ご来社願えないですかねえ……?」といった具合。
10社にそれぞれ個別に呼び出しをかけて、「雇用調整」実施の概要説明を行い、企画提案書の提出期限を切って申し渡すのだ。
選ばれた10社は競い合って企画提案書の作成作業にかかっていく。
過酷なレースの幕が開いたのだ。
ある日の人事部の会議室。
提出された10社の企画提案書の最終審査が行われている。
「まあ、いろいろとバラエティーに富んだ内容だなあ…。」
北条部長が言った。
山村課長は言った。
「当社の社風に合ったやり方が良いと思うんですよ。」
「アメリカン・スタイルの手法で提案している業者はやはり外資系の業者ですからね。 うちの会社の社風からすると、少し違和感がありますよ。 社員からみても何だ、会社は変わったのかと言われかねないのではないでしょうか。 その様な手法を採れば会社と社員とのこれまでの信頼関係すら壊れてしまうのではと心配ですね。」
北条部長は言った。
「ウン、辞めていってもらう社員が、うちの会社は温かい会社だなあーと感謝の気持ちを抱きながら、第二の職業人生に挑戦していってもらいたいと思うよなあ。 後になっても、ああーあの会社に勤められて幸せだったと振り返れるような“送り出し方”をしようじゃあないか。」
「そういう観点からすると、内資系の業者から 2社と外資系1社に絞ったらどうだろう。 どうかな?」
山村課長は賛成した。
「そうですね。 対象者の社員自身が、自主的に社外に転進しようと思うようなやり方が望ましいですね。 納得して会社を辞めていただくというやり方がベストの方法であり、また、そういうやり方は一番うちの会社らしいと私も思いますよ。」
「間違っても、ドライな退職勧奨的な辞めさせ方はイヤですね。 良い社員にもこの先ズウーッと会社に対する不信感をもたれることになりますよ。」
「その様なやり方は、役員の方々の本意でもないですからね。」
「よし! 決まりだ。」
「内資系からH社とJ社。 外資系からL社としよう。 プレゼンの日程調整をしてくれ。」
「外資系のL社を入れたのは、内資系2社の提案の内容と非常に基本スキーム自体が似ているためだ。」
「社員の気持ちに寄添いながら、丁寧に社外転進を図るための施策である「キャリア・カウンセリング」の実施と「キャリア相談室」の常設という提案が入っているからだ。 “一刀両断の撫で斬り型”ではないところが良いと判断したんだ。 どうかな?」
北条部長から理由説明がされた。
プレゼンにノミネートされた3社が決まった。
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こうして3社によるプレゼンが実施され、業者が選定されていくという仕組みだ。
業者の数は、1社の場合もあるし、複数社を決める場合もある。
ただし、複数社に決める場合は、退職社員の再就職をサポートしていく領域の仕事を、複数の業者に託すためだけである。
管理職を対象にした部下との面接の仕方を学ぶ“面談研修”や、上司面談の後に、客観的な第三者であるプロのキャリア・カウンセラーによるカウンセリングを社員に受けさせて、社員の相談に乗らせたり、社員が抱いている今後のサラリーマン生活に関る不安感の除去や悩み等の解決を意図するキャリア・カウンセリング、及びコンサルティングという領域の仕事を依頼する業者は、複数の中の1社に決めて臨むことになるのが一般的だ。
この業者選定は、その企業の人事部の「目利き」のグレードが問われるところでもある。
質が劣る人事部の場合、部下との面談を行う管理職に面談の仕方を指導する「面談研修」はA業者に発注し、社員の「社外転進マインドを醸成させて転進への決断」をさせていく「究極のキャリア・カウンセリング」や、社外転進を決断した社員に、再就職を成功させるノウハウを主として助言し、再就職への不安な気持ちを和らげたり除去して前向きな心の構えをつけさせていく「キャリア相談室の相談業務」はB業者に発注。 最後の「再就職支援サービス」を担当する業者はC業者に発注するという“オオボケ”をやらかして平然としている。
業者によって、「面談を行う理念やコンセプト」は異なっていることを知らないが故に、上司が行う面談のスタンスと、「キャリア・カウンセリング」や「キャリア相談室」の理念とコンセプトがミスマッチしてしまい、上司の助言と食い違って、社員が混乱して会社への不信感と経営陣への怒りを醸成させてしまい、その後の雇用調整がスムーズに進まないという失態を演じてしまう。
仮に、業者によって雇用調整を行う理念やコンセプトが異なることを知りながら、あえて複数の業者に「分断発注」するということであるならば、ある特定業者と人事の責任者がはじめから癒着していると見て先ず間違いはない。
これでは、対象社員はたまったものではない。
「一気通貫(いっきつうかん)」の理念とコンセプトで「雇用調整」は実施されてはじめて、社員の思いに沿った会社のサポートが成就することを忘れてはならない。
その為には、業者は、1社に限るのが原理原則なのだ。
もっとも、大抵の“アウト・プレースメント”業者は、社員の「社外転進マインドを醸成させて転進への決断」をさせていく「究極のキャリア・カウンセリング」や、社外転進を決断した社員に、再就職を成功させるノウハウを主として助言し、再就職への不安な気持ちを和らげたり除去して前向きな心の構えをつけさせていく「キャリア相談室の相談業務」という仕事自体を「それは、会社の果たすべき役割だ!」と言って会社に押し付けている。
「『退職勧奨』は、その勧奨対象社員を一番知っているのが会社の直属の上司だから、直属の上司が行うのがセオリーだ!」という理屈をつけて巧みに逃げてしまうのだ。
本来のあるべき姿は、苦しい決断をせざるをえない状況下にある社員の心情や、社外転進する決断を下すまでの経緯や背景を知った上でこそ、心の通った再就職活動へのサポートが出来るというものなのだ。
ここの一番大事な「寄り添う心」を最初から持たない業者の、再就職支援サービスなぞというものは、自ずとその“品質”は、知れたものと言えよう。
従って、社員の立場からすれば、自分の会社で何らかの「雇用調整」が実施されることになった場合、「上司による個別面談」の他に、再就職支援業者やアウト・プレースメント業者以外の団体による「キャリア・カウンセリング」や「キャリア相談室の常設」ということが行われることになっていれば、先ず一安心してもよいと言える。
再就職支援のサービス内容も、「ハートフルな支援」が展開されていく可能性が高いと判断しても良い。 従って、大切なチェックポイントなのだ。
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しかし、このような業者ではない場合の「リストラ実施に関する企画提案書」の中身は、一般的には次のような内容だ。
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社外転進を決意したか、ほぼ決意した社員についてのみ、自社の再就職支援活動の内容や再就職させた他人の実績を語り、自社のサービスを受けるように「勧誘」するだけの話し。
いわば「営業活動そのもの」であって、相談に来た社員への「真の寄り添い力」なんかは決して強くはないのが本音レベルの実態だ。
このことを熟知している人事セクションは少ない。
それはそれとして、この業者のプレゼンは、5社以上に対してプレゼン要請を出して実施する企業もある。
プレゼンを要請する業者の数が、多ければ多いほど、その企業の人事部門のレベルは低いとみて間違いはない。
人事部門の勉強不足による「目利き」が良くないから、プレゼンに参加させる業者数の絞り込みが不足しているのだ。
人事部門における、イヤその企業の変なプライドが先行して、多くの業者を競い合わせて「自己実現?」するタイプだ。
他社に誇れる人事制度を持っているわけでもないのに、一流気取りをする企業に多いのも事実だ。
人事マンにしても、その道の一流のプロフェッショナルといえる人材は、余り見当たらない。
極端な例でいえば、会社の色褪せたブランドという看板に、ただぶら下がっているとしか思えない人もいる。
そのような企業に遭遇するたびに、この会社の社員は、不幸だなあ、と変な同情を禁じ得ないことがままある。
それはそうとして、業者のプレゼンが終了すると、採用した業者の企画提案書をもとに、業者と「退職優遇策」、「削減人員数」そして「リストラ実施の基本スキーム」に沿った「タイムスケジュール」等の最終的な協議が行われ、役員会に人事部案として稟申されて承認を得ていくという展開だ。
役員会の承認の後、労使協議会を開き、会社案としてリストラ実施内容を説明し、労働組合との協議に入っていく。
そして労働組合との協議にて合意を得た上で全社に告知し、マスコミにも発表。
次のステップとして、社員に対する会社としての「説明会」を開催するという運びだ。
(労働組合が存在しない企業においては、労働組合との事前協議は当然にしてありはしない。「ある日、突然開かれる説明会」で、リストラが顕在化するのだ。)
この間、併行してこれからも会社にとって「必要な人材」と「不要な人材」の個別選定が、人事部署および各ライン部署によって行われていく。
サラリーマンとして「克つ」か「負けるか」の運命の評定でもあり、サラリーマンの「運不運」が決定づけられる評定が静かに行われていく。
前述した「人材の良し悪しを決める『目のつけどころ』」は、「リストラを実行しなければならない背景」により選定基準が変わってくるのが普通だ。
即ち、こういうことだ。
「リストラを実行しなければならない背景」というのは、一言で言えば、「リストラをせざるを得ない経営上の必要性が生じ、そのために結果として『余剰人員』が発生して雇用調整を実施せざるを得なくなった」ということ。
もう少し詳しく述べれば、「経営上の必要性」には、次のようなカテゴリーに分類される。
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@ 業績不振で、減収減益構造に経営が陥り、売上高に見合う要員数に縮小化を図らなければならない必要性が生じた場合。
A 事業の「選択と集中化」による不採算事業所あるいは不採算店を閉鎖または事業の撤退に伴なう工場閉鎖等により余剰人員が発生し、且つ、その余剰人員を他の部署で吸収することが出来ない為に、雇用調整の必要性が生じた場合。
B ある業務が外注化または派遣社員化されることにより、従来の業務規模を縮小・再構築する必要性にせまられた結果、余剰人員が発生し、なお且つ、その余剰人員を他の部署で吸収できない為に雇用調整の必要性が生じた場合。
C 企業の合併吸収によって、重複部署に余剰人員が生じ、なお且つその余剰人員を他の部署にて吸収が不可能なため、雇用調整の必要性が生じた場合。
D 全社的あるいは特定部署の業務の合理化を推進したことにより、余剰人員が発生し、なお且つ、その余剰人員を他の部署で吸収することが不可能なため、雇用調整の必要性が生じた場合。
E いわゆる「攻めのリストラ」と言われるもので、業績も悪くはないが、企業の将来の為に、企業体質を更に強靭なものにしておくことを目的に、「労務構成上の歪み」や「直接人員対間接人員の比率の適正化」等の是正を目指した雇用調整を実施する必要性が生じた場合。
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以上のように概ね分類されるが、このカテゴリー別に、「必要な人材」「不要な人材」、あるいは「含み損社員」の選別が変って来るのだ。
いづれにしても、その企業なりの基準を設定して「人材の吟味(評価)」が、人事部門と各部門の責任者との間で繰り広げられる。
誰を残すか、誰を外に出すかという人材の選定に当っては、「選定区分」の設定も不可欠となる。
通常、人材の「選定の区分」は、「5段階」に分ける企業と「3段階」である企業とがある。
「5段階」に区分する場合は、
【A人材】【B+人材】【B人材】【B-人材】【C人材】と称される事が多い。
「3段階」に区分する場合は、単純に、【A人材】【B人材】【C人材】となっている。
会社として「辞めさせたい人材」は、
「5段階区分」では、【B-人材】と【C人材】にエントリーされた社員だ。
「3段階区分」では、ズバリ【C人材】と評価された社員だ。
一番微妙な吟味の個所は、【B人材】に評価すべきか、【B-人材】に評価すべきかという個所である。
この差異は、天国と地獄だ。
管理職の「人間的判断」という「さじ加減」が入り込むところでもある。
この領域には、人事部門も現場の判断に任せる他はない。
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この「人材の吟味」と合わせて、再就職支援等の業者によって、部下との面談を担当する管理職社員を対象に、「面談担当者向け研修」が実施されるのが常だ。
この「面談担当者向け研修」は、多くは「一日研修」だ。まる一日かけてジックリ、行われる。
この研修を通して、面談を担当しなければならない管理職社員の「心の構え」が醸成されていく他、【B-人材やCD人材】を完璧に辞めさせていくノウハウを身につけていくのだ。
もっとも、いい加減な業者によるこの種の「面談研修」はまる一日時間をかけるというような手間隙なんかはかけない。
2〜3時間の研修を行えば充分だと企業を言いくるめ、あとは配布した資料をもとに本番の面談を頑張って行ってくれ、あなた方の役割責任を果たすように、と受講者に要請して終了というスタイルだ。
良質な業者による場合は、実際の面談のようなロールプレーに多くの時間を費やしたり、業者の講師と受講者との間に、濃密な質疑応答の時間を設けて、受講者をして「これならどんな難しい部下にでもシッカリとした面談が行える」という確信をもたせるまで、丁寧に指導が行われていく。
この種の面談研修は、通常、一般社員が休日に当る「土曜日」に開催されることが多い。
自社でリストラが発表されたら、「土曜日」の管理職や上司の動向に注意を払ってみることも大切だろう。
再就職支援の活動内容の「質」が透けて見えてくるからだ。
上司や他の管理職の口から、「一日拘束されたよ」という返事が返ってくれば、会社が選定した再就職支援の業者は「良質」だと考えてよい。
「イヤー、3時間程度の講習だったよ」という返事ならば、会社が選んだ他の業者に再就職支援の申請をすることだ。
業者によるこの「面談担当者向け研修」が終了すると、研修を受けた管理職による部下への「個別面談」が開始されていくという展開だ。
会社としては、【A人材】【B+人材】は、「会社に残したい」
【B-人材】や【CD人材】については、「会社を辞めさせたい!」
【B-人材に選定された社員本人】は、「会社に残りたい」「会社を辞められない!」
【A人材】【B+人材】は、「こんな会社は辞めたい!」
このような攻防が、「上司による部下との個別面談」の場で始まっていく……。
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ここで「B‐人材」や「CD人材」に対する個別面談の様子を、「反訳書」風に再現してみよう。
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| 部下: |
(面談室のドアをノック)
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| 上司: |
どうぞ。 |
| 部下: |
失礼します。 柳沢です。 |
| 上司: |
ああ、柳沢君、そこに掛けてください。 |
| 部下: |
はい。ありがとうございます。失礼します。 |
| 上司: |
毎日ごくろうさま。 |
| 部下: |
いえ…。 |
| 上司: |
仕事の方はどう? |
| 部下: |
一生懸命やらせていただいています…。 |
| 上司: |
そう。 厳しい環境の中で、頑張ってくれてご苦労さん。
今日の面談は、「柳沢君の今後の進路」についての面談なんですよ。 |
| 部下: |
はい。 |
| 上司: |
その前に、ここでの話しは、すべて柳沢君の了解なしには一切他言しないので、自由にどんなことでも遠慮なく話してもらいたいんだ。 |
| 部下: |
はい。 |
上司:
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今日は、30分程面談時間を設けてあるので、宜しくお願いしたいんだ。
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| 部下: |
はい。 |
| 上司: |
えー、先日の「従業員説明会」で説明しました通り、大阪工場・小田原工場の2工場閉鎖と希望退職者の募集という事態を向えたことは、君も承知のことと思うのでね。
そこで今日は、今後の君の進路等について、会社としての意向とか助言を話させてもらったり、君のご意向等を聴くために面談の時間を設けたのよ。 分ってもらえたかな? |
| 部下: |
はい。わかりました。 |
| 上司: |
ところで聴きたいのは、君から提出された「キャリア・シート」を読ませてもらったんだが、それによると、「今後の進路について」の欄では、「希望退職募集」に対する気持ちは、「応募しない」というところに〇印をつけているけど、現在の柳沢君の気持ちを確認しておきたいんだけど、どうなのかな? |
| 部下: |
ハイ。 「キャリア・シート」に記入した通りです。女房とも話していたんですが、これからもこれまで通りの仕事を他工場でやらせて頂き、会社の為に頑張っていこうと思っています。 |
| 上司: |
あっそう。 これからも今の仕事を他工場でやっていきたいということなんだね |
| 部下: |
ハイ、そうです。
私は今回の「希望退職募集」には全く関心はありません。 |
| 上司: |
あっそう。
現在でも「希望退職の募集」には応募しないという気持ちには変わりはないということなの? |
| 部下: |
「希望退職募集に応募」するなんてとんでもありません。
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| 上司: |
あっそう。 君の今の気持ちは分ったので、私のほうから少し君の今後の進路に関する話しをしておきたいんだ。
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| 部下: |
……、ハイ、何でしょう? |
| 上司: |
君の場合、過去の人事評価と今後の会社や他工場で求めるパフォーマンスと、発揮が期待される君の力等を総合勘案した結果、今後活躍して頂くポジションが、どうしても見つけることが出来ない状況なんだよ。
君の将来性や金銭を含む処遇や精神的充実感といった面から考えると、今回のことを職業人生の一つの節目として捉えてもらって、思い切って社外に新しい活路を見出していくほうが、君にとってプラスではないかと考えるんだよ。
この点について君の想いを聴かせてもらいたいんだ。 |
| 部下: |
…私に会社を辞めろということですか? |
| 上司: |
そうじゃあないよ。 誤解の無いようにしてくれよ。 今後の進路を考えいく上での『判断材料』として、会社がどのように考えているかを伝えているんだ。
君の将来を考えた場合、君にとってベターな選択肢は何かを真剣に考えてもらいたいんだ。
最終の判断は、君自身が決めることだけれどね。 |
| 部下: |
何をおっしゃってるんですか…。 他工場に配置転換ができないということを、誰がどのようにして決めたのですか? |
| 上司: |
繰り返して言うけど、会社として多方面の角度から慎重に検討を加えて、話し合った結果なんだよ。
だから、君にとってベターな選択肢は何かを、君自身も再度真剣に考えてほしいんだ。 |
| 部下: |
何故、私なんですか? |
| 上司: |
先ほども話した通り、過去の人事評価と今後の会社や他工場求めるパフォーマンスと、発揮が期待される君の力等を総合勘案した結果なんだよ。
従って、この際、積極的なチャレンジ意欲をもたれ、新しいステージで君の“強み”を生かして頂き、「より働き甲斐のある職業人生」を手に入れられる方が、君にとってベターなのではないかと考えるんだよ。 |
| 部下: |
納得いきません、ハイ…。
折角のアドバイスを頂いたのですが、私は「希望退職の募集」には応募する意志はありません! |
| 上司: |
君の現在の意向は分ったよ。
しかし今日、私が君に話したアドバイスは、今後も変わることはないよ。
このことを再度考えてもらい、また、ご家族の方々ともよく相談して欲しいんだ。 約束してもらえるかな? |
| 部下: |
…。 |
| 上司: |
それと、柳沢君には〇月〇日の△時に、キャリア・カウンセラーによるカウンセリングを受けてもらうことになるので、承知しておいて欲しいんだ。
このキャリア・カウンセリングは、外部の専門家が、今後の進路に関する色々な問題について中立的な立場で親身になって相談にのってくれるところなんですよ。 きっと君にとってご参考になること思うんだがね。
このカウンセラーからのアドバイスも参考にしてもらって、今後の進路選択についてよく検討してもらいたいんだ。
検討の結果は、私との次回の面談の場で聞かせてもらいたいんだ。
いいですか? |
| 部下: |
…ハイ、分かりました。 |
| 上司: |
時間もそろそろ来たので、最後に柳沢君のほうからこの際、会社に知っておいて欲しい家庭の事情とか、または質問等があったら、遠慮なく話して下さい。 何かありますか? |
| 部下: |
………。 実は同居している母にここのところ痴呆症の症状がでてきて、手がかかるようにもなっていますし、長男は大学で関東に下宿しており、次男はこれから大学を目指すところで、色々とお金もかかる事情があるのです。 |
| 上司: |
あっそうなの。 お母さんに痴呆症の症状が出てきて、手がかかるようになったり、息子さんたちにも、お金がかかる時期になっているということなんだね。 |
| 部下: |
はい………。
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| 上司: |
君のご家庭のご事情はよくわかりました。
このようなご事情であるならば、ますます 君がしっかりと働いていかなけばならないよね。
これからの定年までの長い間、どこで、どんなウデで家族を養っていけばよのかをこの際ジックリと考えて欲しいね。
そのためにも、会社としては君にとってベターな進路選択を今日はアドバイスしたつもりなんだ。この会社の真意を充分ご理解いただきたいと思うんですよ。
そろそろ予定の時間も来たので、君からの質問がなければ、今日の第1回目のキャリア面談はこれで終了したいと思うんだ。
次回の面談までの間に、私に何か相談したいことがあったら、いつでも相談に乗るので、どんな些細なことでも声をかけてよ。
それと、次回の面談の日時は、追って連絡をさせてもらうので、よろしく。
ハイ、今日はどうもお疲れ様でした。
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これが会社として辞めて欲しい人材に対する初回の面談の様子だ。
ここまでハッキリと社員に伝えきれない会社も多い。
そのような会社は、一般的な傾向として家族主義的な風土をもったところだ。
いずれにせよ、「不要な人材」は、このような面談から“辞めさせるルート”に乗っていくのだ。
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「不要な人材」には、面談が続行されていく。
攻防はまだまだ続く。
2回目の面談の様子を、これまた先ほどのように実例を「反訳書」風にご紹介してみよう。
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| 部下: |
(面談室のドアをノック) |
| 上司: |
どうぞ。 |
| 部下: |
失礼します。 柳沢です。 |
| 上司: |
どうぞ、掛けてください。 |
| 部下: |
はい。ありがとうございます。失礼します。 |
| 上司: |
忙しいところ申し訳ないですね。 |
| 部下: |
いえ…。 |
| 上司: |
前回も話ししたように、すべて君の了解なしには一切他言しないので、自由にどんなことでも遠慮なく話してください。 |
| 部下: |
…はい。わかりました。 |
| 上司: |
今回も、30分程面談時間を設けてあるので、宜しくお願いします。
早速だけれど、「キャリア・カウンセリング」を受けてどうだった? |
| 部下: |
はい。 たいしたことは無かったです。 全く参考にもならなかったですよ。
ただ、一般的な話ばかりで時間の無駄でしたねえ。 |
| 上司: |
それは期待はずれだったね。
ところで本題に入るけど、前回の面談では、今回の「希望退職募集」についての、君の意向を聴いたりしたけど、今日の面談では、検討してもらった「希望退職の募集」に対する君の結論を聴かせてもらいたいんだ。 いいですか?
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| 部下: |
はい。 私の気持ちは前回とお話したとおりで、全く変わっておりません!
ですから、この会社で今後とも働いていくというのが検討した結果です。 |
| 上司: |
ほう、前回と全く変わっていないということなんだね・・ |
| 部下: |
はい。 前回の面談の時にもお話ししましたように、今の仕事を通じて今後も会社の再生に向けて、他工場で貢献していきたいと思っているんです。
女房ともよく話し合ったのですが、プライベートの部分で色々と大変な時期に、働き慣れた職場から全く新しい会社や仕事に就くことは、二重三重の苦労をすることが目に見えています。
ましてや再就職の見通しが立たないうちに退職するなどとは、とても考えられません。
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| 上司: |
君の気持ちはよく分かったよ。
少し、私の話しを聴いてもらいたいんだ |
| 部下: |
…。 |
| 上司: |
この間発表された「2工場の閉鎖」と「希望退職募集」の施策は、我が社の存続と再生を強力にすすめていくものだ。
したがって、これまで以上に人材の精鋭化を、より強力に進めていかなければならないし、販管費の中の贅肉を削ぎ落として、筋肉質の企業体質にスピードを上げて変えていく必要があるわけだ。人員配置にしても、これまで通りのように、社員全員が従来通りの配置先について、従来どおりの仕事をしてもらうという状況ではなくなっているんだよ。
その中で、前回も話したことなんだが、誠に残念なんだけれど、君の場合、パフォーマンスからみると、君の経験や能力を活かしてもらうポジションが他工場においても見つけられないという厳しい状況下にあることを理解してもらいたいんだ。
私としては、厳しい逆風の中で今後、君が苦労をするよりも、これからの長い職業人生を、より充実して過ごしていくためには、この際、「希望退職募集」について検討していくことも、けっして君にとって損なことではないのではないかとアドバイスしているんだよ。
ぜひ、再度、検討してもらって、賢明な判断をしてもらいたいと思っているんだ。
このことは、君のご家族にとっても大変重要なことであることは言うまでもないので、更に奥様ともよくご相談してもらい、次回のキャリア面談までにぜひ、最終結論を出して欲しいんだ。
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| 部下: |
でも、私はやっぱり、応募しませんし、この会社を退職する意思はありません!
仮に退職したとしても、年齢が年齢ですし、他の会社が簡単に見つかるとは思えませんし、見つける自信もありませんよ。たとえ新しい働き口が見つかったとしても、その会社でうまくやっていけるかどうか…、新しい環境に順応できるかどうかも自信が持てないというのが今の正直な気持ちなんですよ…。
やはり、私は応募することはできませんし、応募したくはありません。
会社に残してもらいたいんですがね。 どうか私のこの意志を尊重してもらえませんか! お願いします!
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| 上司: |
もちろん、応募するかどうかは、君自身の判断だけれどもね。
ただ、君の将来を考えた場合、君にとって一番よい方法は何かを真剣に考えてもらいたいんだ。
君がこれからも会社に残っていたとしても、君が勤務している工場は閉鎖されるんだよ。 会社としては、充実した職業人生をご用意できないことはハッキリしているでね。 さりとて他工場においても、活躍してもらうポジションが無いこともまた事実なんだ。 この現実をよく理解して欲しいんだ。
君が会社に残って再建に協力したい”と、そこまで考えいただいていることには感謝するよ。
ただ、それだからといって他工場が求めるスペックに君のパフォーマンスが残念ながら合致しないのも事実なんだよ。
これまでの経験や能力を発揮できないような状態で、定年までの長い間、会社として君を置いておくことは、これからの君の人生を無駄にすることになって、会社として採るべき考えではないと思うんだ。
会社としては、今後の君の職業人生をより幸せなものにしてもらうために、再就職ができるまでの支援をさせてもらうことや、再就職後もキッチリと新しい職場に定着できるまでのフォローも、再就職支援会社との契約で可能な体制をとっているんだ。
あなたを必要とする企業は必ずあると確信していますし、会社としてもできる限りの支援をしていきます。
また、できる限りの経済的便宜も計っています。
「希望退職募集」に応募したくないという君の気持ちは充分理解すれけれど、そういう感情論だけでは解決できない厳しい状況下に会社も、君を取り巻く環境もあることだけは理解してもらいたいんです。
分かってくれたかな?
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| 部下: |
私の意志を尊重していただけないのですか? どうなんですか? |
| 上司: |
もちろん再三話しているように、君の自由な意志で決めいただくことですよ。
厳しい逆風のもとで、不本意な仕事で定年まで働いてもかまわないという判断ならそれもいいと思うけれどね。
しかし、本当にその選択肢をとることが、君にとって「得なこと」であるとは、私には到底思えないんだなあ……。
どう? 本当にその選択肢が君にとって「得なこと」なのかね?
君の考えを聞かせてよ。 |
| 部下: |
私がそうしたいと考えたのですから、それでいいではありませんか!
やっぱり、あなたは私を何が何でも辞めさせたいのですね。 これはもう明らかに退職勧奨ですよ。 |
| 上司: |
話をそらさないでもらいたいなあ。
君が選択しようとしていることのどの点が、何が君にとって「得なこと」と考えるのかねえ? |
| 部下: |
……。 |
| 上司: |
今日話したことは、極めて慎重に会社として検討した結果だし、また同時に君の将来を考えたベターな方法であると考えているんだ。
更に時間をかけて検討してもらって結構なんだが、会社のこの助言が,今後もかわらないことだけは是非頭に入れておいて欲しいんだ。
それから会社は、キャリアの方向性に迷っている場合の支援の一つとして、専門の外部カウンセラーによる「キャリア相談室」を設置しているんだ。
ここでは外部労働市場の実情に詳しい専門家が、会社・仕事・ライフプランに関するアドバイスや再就職支援サービスの説明もしてくれるので、是非、一度、相談に行ってみてくださいよ。 いいね? 私の方から人事部の方へ予約申請しておくからね。 追って人事の方から日時の連絡が入るからよろしくね。
予定の時間も来たので、君からの質問等がなければ、今日の第2回目のキャリア面談はこれで終了しよう。
今日話し合ったことを検討してもらって、次回のキャリア面談でその検討した結論や「キャリア相談室」での模様を聴かせてよ。 約束いただけるね?
また、次回の面談までの間に、何か私に相談したいことがあったら、いつでも相談に乗るので、どんな些細なことでも声をかけて下さいね。
お疲れさんでした。
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とまあ、上司との2回目の面談はこのような展開がされる。
そして会社から「不要な人材」とされた社員は、人事部から連絡された日時に「キャリア相談室」のドア−を叩かされることになるのだ。
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そこでは、外部のキャリア・カウンセラーによって「社外への転進によって得られる得」を説かれ、同時にまた「社内に留まることへの損」を説かれ、その結果、会社を辞める決断をすることになり、ここに会社の「辞めさせたい」という想いが成就するという段取りだ。
この手法を指して世の中は、「ソフト・ランディングによる雇用調整法」と呼んでいる。
まさに日本的なリストラ手法だ。
この手法をとるステージには、外資系リストラにおいて言われる、いわゆる「クビキラー」といわれるような人たちは登場しない。
気品?があって、かつ「不要な人材」と評された従業員サイドに身を置きつつ展開される、今後のキャリア人生に関する助言活動を通して社員を社外に転進させていく手法なのだ。
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「『社員の気持ちに寄添いながら、丁寧に社外転進を図るための施策である「キャリア・カウンセリング」の実施と「キャリア相談室」の常設という提案が入っているからだ。 “一刀両断の撫で斬り型”ではないところが良いと判断したんだ。 どうかな?』
北条部長から理由説明がされた。」
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前述した北条部長が登場してでたこの一節が、まさにこの「ソフト・ランディングよる雇用調整法」であったのだ。
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